私はお酒がほとんど飲めません。
食前酒で出てくれば、ひとくち、ふたくち飲むこともあるという程度です。
先日行った高尾山、ビアマウントがあるのですが、酔っ払っているにもかかわらず、ケーブルカーを利用せずに、フラフラしながら下山するグループを目にしました。
お酒を楽しまれる方を不快な気持ちにさせたら申し訳ありませんが、山でお酒を飲むことについて書きたいと思います。
今までたくさんの山に登り、美しい景色と出会えました。
そのうちのひとつでの、風景ではなく忘れられない出来事です。
午後、山小屋に到着した私は景色を眺めながら、音楽を聴いていました。
16時頃に到着したその登山者は、到着直後から夕食時まで、ビールやお酒を飲んで大声で話していました。
「酔っぱらって声が大きくていやだな」
そのときは、その程度でした。
夕食が済んで、山小屋の人も一緒にみんなで日没を待っていました。
その日はとても天気が良く、橙色へと染まっていく空がとてもきれいでした。
それぞれが静かにその景色を楽しんでいる。
そんな中で、その登山者は、年配の3人の女性に
「〇〇岳はいい山だから、絶対登りな」
と、大きな声で何度も同じことを言っていました。
初めはうなずいていた女性たちも、そのうち
「私たちはお花を見ながらのんびり歩くのが好きだから…」
と遠慮がちに、距離をとり始めました。
その3人はのんびり山を歩きたいと言っているのに、しつこいなと思いました。
音楽を聴いていてもなお聞こえる声量に、いらついていたのかもしれません。
女性たちが離れたので、話しかける人を探しているのかフラフラと歩き始めました。
持っているお酒の缶を何度も落として、拾おうとするたびに尻もちをついていました。
周りの人たちが
「ちょっと飲みすぎじゃないか?」
「部屋で休んだら」
と声をかけましたが、
「いつも山ではこうしてるんだ!」
と戻らず、フラフラ歩いていました。
なんとなく見ると、鼻の脇に出血の跡もあり、ほんとにこの人大丈夫かなと思いました。
夕食時に話したという他の登山者から、この人が明日、夜明け前に出て〇〇岳に登ろうとしていたと聞いて驚きました。
そこから下りてきたんだとばかり思っていたから。
その解放感で、こんなに飲んでいるのだと思った。
しかも、1泊2日の予定なので、〇〇岳に登って△△まで下山するつもりだったんだ。
歩行時間は、10時間どころじゃありません。
しかもお遊び気分で歩ける登山道ではないところです。
やがて、太陽が沈みました。
そういえば静かになったな、と思ったら離れたベンチに座っていました。
私は(緩やかですが)下りの斜面をサンダルで歩いていたので、足元に目をやり、また顔を上げたら、ベンチに人影がなくなっていて、ベンチの横に何かが見えました。
「え? 人じゃないよね?」
うつぶせに倒れていたのです。
そう気づいた瞬間、ベンチ側ではなく、崖側へごろんと落ちていきました。
何が起こったのかは一目瞭然。
もうそこにさっきまで見えていた何かがないのだから。
でも、信じられなくて。
頭が受け入れられないまま、ベンチに向かって走りました。
私のいた位置からは見えなかったけれど、小屋番さんも見ていたのでしょう。
私よりも先に、走り寄りました。
双眼鏡で下をのぞいても姿は見えず、名前を呼び続けても応答はない。
山を歩いていて、目の前の人が落ちたらショックだと思う。
でもこれは…
酒を4本以上も飲んで、あんなフラフラで明日、〇〇岳に登る?
高所で飲んだら酔いがまわるの早いんでしょう?
売った小屋の人が悪いんじゃない。
明日、山に登るなら自己管理が必要です。
それをしなかった結果です。
死んでしまったのは、100%自分の責任だと思う。
お亡くなりになったことは気の毒ですが、自分で気をつけなければいけなかったこと。
山で命を落とすにしても、道迷いや滑落とは違います。
山岳警備隊に一報を入れると、驚くほどの速さで隊員の方々が駆けつけました。
あっという間に確保をとり、下降。
男性の姿を確認したようで、隊長に救助の方針を確認していました。
翌朝、小屋のスタッフが何も言ってこなかったので、助からなかったんだと思いました。
落ちた瞬間を見ていたため事情聴取(山岳警備隊は警察です)をされていたので、どうなったかを教えてくれました。
やはり助けた時点で心肺停止だったそうです。
この日、この山小屋のスタッフは大変だったと思います。
①高山病になり、体調が悪いのに小屋まで来てしまった人が、血中酸素濃度が低下して酸素吸入が必要になりました。
もしこの人がコロナだった場合、重篤な症状になり死ぬこともあったと。
②日没後、19時前に小屋に着いた男性がいて、しかも夕食を食べたいって…
図々しくないですか?
③この事故
大きな景色を眺めながら飲む1杯は格別です。
私も、CCレモンを飲むと幸せな気持ちになります。
でも、分からなくなるほど飲むのは、帰宅後でいいのではないですか?
山小屋は、山を登る私たちを支えてくれています。
なんでも頼りっぱなしになるだけでなく、自己管理をしっかりして、山を安全に歩いていきたいです。
どうか、山を歩いた全員が、楽しかった山の思い出を持ち帰ることができますように。
無事に帰るのを待っていてくれる人のもとへ、元気に戻れますように。