登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

過去の遭難に学ぶ

山と渓谷」や「岳人」を毎月、読んでいます。

15年以上読んでいますので、毎年、似たような記事もありますが、ある年から遭難の特集は全て読むようになりました。

以前は、自分が行く山域のときにだけ、遭難に至った原因に目を通すくらいだったけれど。

 

数年前、北アルプス朝日岳から白馬岳へ向かう際に、台風の猛烈な風と雨にでくわしました。

台風の影響があらわれる直前の透き通った快晴の空のもと、

「やっぱり歩いてよかった〜」

なんて、ノンキに満面の笑顔で歩いていた自分を、今でも張り倒したいくらいです。

 

その1時間後に天気が急変するんだよ、と。

10キロ近いザックを背負ったガタイのいい私の体が、這いつくばっているにもかかわらず持ち上がるほどの風が吹き荒れました。

 

台風の接近は知っていました。

その前に山小屋へ到着できるはず、でした。

その頃は、地図に書かれているタイムの6〜8割でいつも歩けていました。

過信が、間違った判断につながったのだと思います。

 

朝日岳から白馬岳の標準タイムは8時間以上。

もちろん、休憩は含みません。

いつもよりもペースを速めるよう意識はしていたけれど、絶景に目と心を奪われ、景色を写真におさめながら…では、極端にタイムが縮まるはずがありません。

そして、風を感じ始めた瞬間、猛烈な風になりました。

横から、前から、後ろから。

遮るものなく、風は自由にバラバラの方向から吹き荒れます。

白馬岳の山頂までは10分ほど、山頂から山小屋までは20分強。

あと30分以上、この風の中を歩くのか。

 

間もなく雨も降り始めるかもしれない、と岩陰の地面に膝をつき、レインウェアの上だけを着て、ザックの中身が濡れないようにカバーをかぶせました。

レインウェアの下をはくのは時間がかかります。

その時間も惜しかった。

着替えのズボンを持っているから、30分の距離なら濡れてもかまわないと思いました。

 

レインウェアを着て、1分もしないうちに風と雨が全身をたたき始めました。

突風がくるのを感じ取っては耐風姿勢をとり、少し弱まったときにダッシュする。

これを繰り返します。

すごく長い時間に感じました。

ダッシュといっても、視界がクリアではないので、地面が見えているところを進むといった感じでした。

 

手をのばした少し先くらいの距離しか見えないほど真っ白になった視界に、いきなり建物が現れたときは本当に嬉しかった。

そして、二度とこんな判断ミスはしない、と決めました。

 

戒めの気持ちを忘れぬよう、他人事ではない遭難の記事は必ず読みます。