登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

スライス餅

かつては、山ごはんで活躍していた食材です。

ラーメン1人前だけじゃ物足りないとき、最後に数枚のせれば腹持ちもよくなる。

薄くスライスされているので、火の通りもよくすぐとろけて食べられるので汁ものに入れたりもしていました。

 

もう15年近く前のことです。

晩秋の八ヶ岳に登ろうと、妹と行者小屋でテントを張りました。

夜ごはんは妹の担当で、具だくさんのラーメンを作ってくれて。

最後にスライス餅ものっけます。

「明日は天気良さそうだね~、風強いかね~」

なんて、のんびりしゃべりながらスライス餅を口に入れたら…

とぅるん、と喉を滑り落ちていきました。

 

正月に必ずといっていいほど、餅はニュースになります。

「お餅を喉に…」と。

詰まることなく飲み込めたので、よかった~と思っていたのですが…

 

それから2時間後、そろそろ寝ようかと支度を始めると、猛烈に気分が悪くなりました。

すごい不快感が体の中からわきあがってきた瞬間、息が詰まりそうになっていました。

呼吸が苦しい、なんで?

死ぬのかもしれない。

冗談じゃなく、本当にそう思ったのです。

その数秒後、今度は吐き気。

言葉を発することもできず、急いでトイレへ走りました。

けぽ~と吐き出したものは…

さっきのスライス餅そのまま!

胃が「これ、消化するの無理ー。お戻ししまーす」と返してきたのでしょう…

飲み込めてよかったよかった、と安心している場合ではなかった。

かといって、飲み込んだものはもうどうしようもなかったのですが。

スライス餅が体から出てしまえば、不快感もきれいさっぱりなくなっていました。

追いかけてきた心配顔の妹に事の次第を報告したら、ここで書けない暴言をいただきました。

それだけ心配させてしまったということ。

それからは、スライス餅が山での食事に出てくることはなくなりました。

 

今でも餅だけは、黙って食べます。

山でだけでなく、常に。

しゃべりながらだと、よく噛まずにまた体内を落ちていくかもしれませんから。

 

昨年、餅ではありませんが生の人参で、久しぶりの不快感が我が身に戻ってきました。

 

人間の体ってすごいですね。