登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

鵜呑みにしない

「店員に全く質問することなく、何を買うか自分で全部決めています」

そんな方もいらっしゃるかとは思いますが、高機能ではあるものの、お値段がそれなりにする山のウェアやザック。

失敗したくない。

私もそう思います。

同じ機能のものなら、よっぽど色やデザインが気に入らない限り買わなくてもいいんだし。

 

これを買う理由がある、と確信をもって選びたい。

これがいいかなぁ? と思っているものはあるけれど、それで本当にいいのか確認してから買いたい。

登山を始めたばかりの方なら、こう思って来店されることもあるかと思います。

 

でも残念ながら、店員は登山のすべてを知っているわけではありません。

もし、そういうアタリの店員さんがいたら、それはとってもとってもラッキーです。

 

ガイドさんや救助関係の方など、その山にずっといるのでなければ、あるひとつの山だけをとっても、すべての登山スタイル、すべての気象条件、すべての季節を経験できることはできないと思うのです。

その不足しているところを、次から次へと出てくる素材を勉強したり、山の雑誌を読んだりして、知識で補おうとしているんです。

「来月、◯◯に行くんだけど、どんなレイヤリングがいいと思う?」

と聞かれれば、今まで歩いたことのある、条件が近い(季節や標高など)山を思い出し、これがベストだと思う提案をしているつもりです。

 

例えば、先日初めて経験した厳冬期の硫黄岳。

赤岳鉱泉から上はピッケルをつかいますが、赤岳鉱泉までの道でトレッキングポールを使うか。

2人の先輩に聞いてみました。

2人とも、私が夏でも冬でも、普段の登山ではトレッキングポールを使っていないことを知っています。

1人は「赤岳鉱泉までなら、いらないでしょ」

1人は「え、持ってかないの?」

そう言うと思っていました。

どっちの人がどう答えるかも、思ったとおりでした。

そして、私は持っていきませんでした。

 

雪山のことを調べると、ほとんどの媒体で

「夏山でトレッキングポールを使っていなくても、雪山にはスノーバスケットをつけたトレッキングポールを持っていくこと」

と、あります。

持っていけば、歩行がラクになるであろうことは想像できます。

膝に不安があったり、テント泊など重い荷物を背負うときに持っている人が多いことからも、歩行の助けになることは間違いありません。

でも、私は手が空いていないとイヤなんです。

そしてトレッキングポールを使っての歩行が苦手です。

手と足が一緒に出てしまうことが多いから!

会社の面接でもそうなって、面接官に爆笑されたこと(うかりました)もあります。

椅子に到達するまでの約20m、どうにかしなきゃ、と焦るばかりで修正できなかった…

どんくさいでしょ。

苦手、ですまさずに練習(?)をすればいいのかもしれませんが、なんせ必要性を感じていないのです。

 

お客さまとして来店し、どちらにたずねるか分かりませんが、

「硫黄岳へ行くんですが、トレッキングポールは持って行ったほうがいいんですかね?」

と聞いたとします。

自分でいろいろ調べたりして「持って行った方がいいんだろうな…」と思っていれば、今までの山の経験を聞かれてからになるとは思いますが

「赤岳鉱泉経由なら、ピッケルがあるなら、トレッキングポールはなくてもいいと思いますよ~」と言われれば「えっ、いらないの?」となるでしょう。

ピッケルが必要な道ばかりではないので、トレッキングポールは雪山では必ず持って行った方がいいですよ」と言われれば「やっぱりそうか」と納得しませんか?

 

今はちょっとスマホをのぞけば、それが多くの人の参考になるような正しい情報なのか、ある特定の誰かの主観的なものなのか、判断がつかない情報をたくさん見つけられます。

正しいか、正しくないのかわからない。

それでも、多くの情報に接し、それについて考えてみる。

自分が今まで歩いた山のことを思い出して、季節は違ったとしても想像してみる。

今まで歩いたことのない季節であっても、気温、風、体感温度を想像してみる。

そして、自分にとって正しいのか、正しくないのかを判断する。

 

納得のいく説明をしてもらえなかったのなら、セカンドオピニオンではないけれど、違う店員に聞けばいいのです。

「自分の欲しい答えを言ってくれる店員を探す」というのではなく「そうか!」と思えるまで。

目の前で「チェンジ」されれば、おそらくつらい。

でも、お客さまが納得できる答えを出せなかった自分の勉強不足、スキル不足でもある。

 

ネットでもお店でも、誰かひとりの発信したものを鵜呑みにするのではなく、まず自分で想像し、たとえばレイヤリングを考えてみてから、お店へはその答え合わせに行くつもりでいいと思うのです。

 

自分で背負える範囲なら、どれだけ備えてもいい。

あとは、装備や知識、経験に不足があることに気づいたら、その場で撤退することを決めて登らなければならないと私は考えています。

 

また、登りに行けばいいのですから。

そして、硫黄岳の登山において、ストックはやはり持って行った方がよかったです。

赤岳鉱泉までは思っていた通り、なくても困りませんでした。

赤岳鉱泉から硫黄岳までの道、なくてもよかったとは思います。

ただ、ピッケルは山頂直下でしか使いませんでした。

スノーバスケットを付けたストックが1本あれば、樹林帯を安全に歩くことができると思います。

歩行に必要というより、ガイドさんに教えてもらったように落ちてくる雪をよけるために、あらかじめ落とすという行為に必要だと思ったのです。

私は「歩くための補助」という役割しかストックにもたせていませんでしたが、雪山では歩行を助けてくれるだけでなく、安全に歩くためのツールになるのだと知りました。

「ストックは必要」と言った先輩は、雪山をたくさん歩いている人です。

10の知識や想像よりも、1の経験なのでしょう。