誰かの初めてを応援したい。
特に7月は、富士山だけでなく「登山を始めようと思って…」という方が多くご来店されます。
「登山を始めたい」という方の接客は私にとって、とても楽しい時間です。
先月から登山を始めたばかり、という若い男性。
「来週、初めてのアルプスで雲ノ平へ行くからレインウェアを買いに来ました」
(初めてのアルプスで雲ノ平かぁ。すごいなぁ)←( )内は心の声です。
3泊くらいのご予定ですか?
(若いから2泊かもなー。新穂高温泉から登って双六で1泊、雲ノ平で1泊、富山に下りるルートいいよねぇ~。また行きたいなぁ)
「1泊です」
(!!)
えーっと … 登山口は折立ですか? それとも新穂高温泉?
「わさび平小屋ってのが近くにあるところです」
新穂高温泉ですね。
そこから雲ノ平までは、途中で1泊することが多いです。
休憩も含めると12時間はかかるので…
「大丈夫っすよ」
あ! 普段走ったりされてるんですかね?
「してないっす」
登山口を出発するのは何時頃のご予定なんですか?
「朝早くに、こっちを出るっぽいですね」
(早朝に家を出ても、登山口に着くの8時とかだよなぁ)
12時間歩きとおせる体力はあるとして、夏だと夕方に雷にあう可能性がありますよ。
「怖いっすね~」
山で雷にあったら、どうしたらいいかご存じですか?
「隠れます」
標高が上がると森林限界といって、木もなくなります。
雷から自分の体を隠してくれるものは何もありませんよ。
四つん這いでなくて、できるだけ低くしゃがんでください。
「そうなんすね。まぁ、大丈夫っすよ。気をつけるんで」
(気をつけたって雷はくるよ…)
それに8時や9時の出発では遅すぎます。
地図どおりに歩けたとしても、雲ノ平に着くの完全に夜ですよ。
「富士山とか、みんな暗いときに歩いてるじゃないっすか。だから大丈夫っすよ」
夜中にあんな大勢の登山者が歩いている山は富士山だけです。
例えば高尾山だって、夜に歩けば会って数人だし、誰とも会わないこともありますよ。
夜に山を歩くのは当たり前じゃないんです。
「そうなんすね~。大丈夫っすよ、ライト買うんで」
家族や友達だったら全力で止める。
お願いだからその計画はやめてくれ、と言います。
「テント泊なんすよ~」
(!!! 初めてのアルプスで、テント泊の重さを背負って、真夏にコースタイム12時間歩こうとしているの?)
荷物の重さはどのくらいか想像つきます?
ザックに水とかも全部入れて背負ってみました?
「えーっと、調べてこれいいな、と思ってるんすよ」
(見せてくれたスマホの画面には35リットルのUL系のザック)
ザックはこれから買うんですね?
重さもですが、35リットルというとこのくらいの大きさ(店にあるものを示して)ですが、寝袋やレインウェア、防寒具も入りそうですか?
持っていくものを、床でいいので全部揃えて、どんな量か見てみました?
「う~ん、わかんない」
一緒に行く人のテントで寝ます?
食事は小屋を利用する予定?
「テントと寝袋も買って、食事作るからガスとか鍋とかも買いました」
(あぁぁぁ… たぶん無理)
言いにくいですけど、たぶん入らないです。
いつもテント泊のスタッフがいますが、そのスタッフがギッチギチにつめれば、夏ならその買おうとしているザックで行けます。
パッキングって経験と技術ですから、初めてだと、おそらく持っていきたいものは入りません。
「じゃあ、どんくらいのザックですか?」
(50リットルを指して)このくらいを用意してほしいです。
「小さくていいと思うんだけど…」と言いつつ、ザックを試してくれました。
お客さまが買おうとしているようなザックは、本体は軽くなりますが、ものによっては重さが肩にズシリとかかります。
お若いし体力はあるかもしれないけれど、テント泊でそれなりの重さになるザックを腰で支えずにほとんど肩だけで背負うのは、しんどいと思うんですよね…
「ちょっと考えさせてください」と言うので、「他のお店をまわったり、他の店員の話も聞いてみてくださいね」と一旦離れました。
2時間後、「他のお店にも行ったけど同じこと言われました。背負ってぴったりだったし、たくさん説明してもらったから、ここでレインウェアとザック買おうと思って」と戻ってきてくださいました。
よかった、伝わっていて。

一緒に来ていたご両親の手前、あまり偉そうにあれこれ言いたくなかったですが…
きっと年齢半分以下なんですもん。
勝手に親の心境です。
仲間と相談して、雲ノ平ではなく、双六岳かせめて三俣蓮華岳のテント場を目指してほしいなぁ。
一応、そのことも言ってみました。
「出発時間をずらせないなら、目的地、雲の平より手前にしません?」って。
テント場でも、繁忙期は予約しなければならなかったり、常に予約が必要なところもあります。
疲れたから目的地より手前のテント場で張っちゃえ〜、ってできないかもしれない。
気温や湿度が高いだけで、歩くのは相当しんどくなります。
普段の生活でも分かることじゃないですか!
「頑張れば◯◯まで行けるかな〜」ではなく「△△までなら(余裕をもって)行ける」というところをその日の目的地にして計画をたてなくては、と思っています。
でも、今回歩けちゃえば「なぁんだ、大丈夫だったじゃん」ってなっちゃうんだよなぁ。
実力ではなく、運次第ってこともあるんです。
毎回、ちゃんと帰れる計画をたてなければ。
《心配点》
・目的地まで遠いのに、登山口を出発するのが遅すぎる
・そもそも1日の歩行時間が長すぎる
・テント泊の重量(暑いから水分も増えるでしょうし)
・ここ数年の異常な暑さ
・雷
・暗い時間(早朝や夕方以降)に歩くことによる、熊との遭遇率アップ
・山を歩くことに慣れていないのに、夜に歩かねばならない(道迷いにつながる分岐の見落としや滑落、転落のリスク)
昔はやれた、という経験による過信(年配者にありがちということで私も気をつけないと…)ではなく、知らないことでの過信。
「大丈夫っすよ」
はじめは何度も出たセリフでしたが、最後の方では言わなくなりました。
脅したいわけじゃない。
楽しむために行った山で死んでほしくないだけです。
いろいろ言って、うざがられることもあるんですけどねー。