登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

山景 その8

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「山にクジラがいる!」

ハァハァ荒い息をつきながら振り返ったとき。

山でなくても見ることができたでしょうが、山で出会えた景色ということにします。

 

今すぐ思い出せるキツイ道が2つあります。

そのひとつが、北アルプスの最北にある蓮華温泉から朝日岳の登りです。

出発した蓮華温泉ロッジがずっと視界に入るのですが、いっこうに遠ざからない。

遮るものがない強い太陽に、ジリジリ焼かれ続けます。

額から汗がぽたぽた地面へ落ちるのですが、地面に吸い込まれた瞬間「ジュッ」って音が聞こえそうなくらい。

休憩中、地面に汗が落ちて染みてもすぐ乾くくらいの暑さでした。

顎が上がるくらいに息があがってしまい「もう疲れたよぅ…」

膝に手をつき立ち止まって呼吸を整え、ふと振り返ったら、この大きな雲が見えたのです。

思わず「うわぁ!」と声が出ていました。

太陽が目のよう。

すぐに形が崩れ、クジラに見えたのはほんの数分でした。

 

ちなみに、キツイ道もうひとつ。

こちらも北アルプスですが、アルペンルートの終点「室堂(ゴールデンウィークの雪の壁で有名ですね)」から歩いて「五色ヶ原」という景色のいいところに着きます。

そこで泊まってさらに薬師岳へ南下していくのですが、途中で「スゴ乗越(のっこし)小屋」を通過します。

小屋が見えました。

目指す小屋はすでに目線の高さ…ということは、この先には登ったり下ったりの道が…

200m上がって下って、の繰り返し。

地味にキツイ。

でもこの山小屋ごはんが、ダントツで1位なんです。

具たくさんの味噌汁、カレー、すべてが絶品でした。

でもあのアップダウンを歩かないと、あの味にたどり着けないんだな。

 

山景 その7

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ここも毎年のように見たくなる景色です。

鳳凰三山のひとつ、地蔵岳

標高は2,764mです。

 

南アルプスには日本標高2位の北岳があります。

北岳の登山口である広河原へは、甲府駅から2時間ほどバスでかかりますが、その途中1時間半ほどのところに「夜叉神峠(やしゃじんとうげ)」バス停があります。

 

夜叉神峠から登ると薬師岳観音岳地蔵岳と続きます。

薬師岳の白砂の景色も、なんだか急に別世界に来たようで好きですが、

鳳凰三山のなかで、どれかひとつ!」

となると、やっぱり地蔵岳なんですよね~。

 

合掌したような形の岩はオベリスクと呼ばれています。

稜線を歩いていて、このオベリスクが見えてどんどん近づいてくると、何度も見ているのにいつもドキドキします。

とっても大きな岩です。

このてっぺんに登っている人をたまに見かけますが、もし登る技術があっても、私はここには絶対登らない。

大日如来薬師如来に土足でよじ登る人はいない。

私には、ここは祈りの場にしか見えないんです。

ひとり静かに見ることができるときだけ、ゆっくり眺めて過ごします。

本当に好きな場所。

そして、大切な場所。

 

手前に映っているお地蔵さまについてです。

このあたりは「賽の河原」と呼ばれているので、なんとなくですが、亡くなった人のためのお地蔵さまなのかと思っていました。

違っていました。

子どもを授かるためのお地蔵さまだったのです。

「1体を持ち帰れば子どもが授かり、2体をお返しすれば健やかに育つ」

相当重いでしょう…願う人すべてができることではありません。

 

新しいものもあれば、長い年月を経て崩れているものもあります。

お地蔵さまの数だけ、新しい命が誕生したということ。

この賽の河原は、命がうまれたことを喜ぶ場所にもなるんだ。

 

トイレがあったら、きっと、もっと長居してしまう。

ここからは長い下りが待っています。

 

山景 その6

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八ヶ岳は、北と南に分かれています。

北は、ロープウェイなどもあり山頂駅から少し歩けば気持ちのいい景色が広がっているのどかなところです。

蓼科山や白駒池などがあり、観光地です。

今の季節だとスノーシューで歩くのも楽しい!

スノーシューは「かんじき」のようなものです。

登山靴に装着すれば、雪に沈まずサクサクと歩けます。

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八ヶ岳の真ん中あたりは、天狗岳や硫黄岳。

硫黄岳の火口は迫力があります。

さらに南下していくと、赤岳や阿弥陀岳など岩がゴロゴロしていたり、歩きづらい場所があります。

 

最初の写真、奥の淡い桃色は遠くに見える山々です。

そのすぐ下には濃い水色のくっきりした三角錐の山。

これは山の影なのです。

毎回見られるわけではありません。

影が映り込むのは、雲海などが多いです。

私は影を見ることができると、静かに興奮しています。

山景 その5

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北アルプス槍ヶ岳へ向かう途中の南岳の山小屋に泊まったときの夕暮れです。

ここは360°どこを見ても絶景で、全く見飽きません。

山小屋に到着してから、トイレに行く以外はずっと、場所を変えながら夢のような時間を過ごしていました。

このときも反対側の景色をずっと眺めていたのですが、ずっと座っていて腰が痛くなり

「ちょっとストレッチでもすっか」

と立ち上がって振り向いたら…こんな景色で。

 

ひとりで歩くことが多いので、人物(自分を含めて)を入れた写真は少ないんです。

でもこのときは、このお兄さんをどうしても入れたくて

「写真に後ろ姿を入れてもよろしいですかー?」

と聞くと

「いいですよー」

おかげで、景色の大きさをより感じられる1枚になりました。

 

この直後、太陽は沈みました。

濃い藍色へ空が色を変えるころ、この湧き上がっていた雲は消え、静かな夜が始まりました。

 

山景 その4

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なんて美しいんだろう。

いつ見てもそう思う。

 

富士山を見ることができる山はたくさんありますが、南アルプスから見る富士山は、距離が近いため大きく感じられて好きです。

 

富士山が正面に見えるところに陣取り、文庫本と温かいミルクティをお供にのんびり過ごす至福のとき

大好きな本を読み、ふと目を上げればこんなきれいな景色がある。

ぽかぽか暖かい日なら、うとうとしたっていい。

 

速く歩いてピークを踏むだけが目的の計画はたてません。

何が何でも山頂に行かなくたっていい。

気に入った場所でゆっくりすればいい。

山で過ごす時間が好きだからです。

暴風雨なのに無理して山頂へ行っても「その山へ行った」というだけの記録を残すだけ。

そこで見る景色が何より楽しみだから、そんなときは麓で過ごします。

山を楽しみに来たけれど、そんなときに登っても修行。

 麓にはきっとおいしいものと温泉があるはず。

気持ちをすぐに切り替えて宿を予約します。

ひとりで山へ行く。

天気が悪かったら、気分がのらなかったら(一度だけあるんです)、すぐ予定を変更できる。

自分が満足すればいいのだから誰にも遠慮はいりません。

 

2021年は南アルプスの山々に登りたいなぁ。

鳳凰三山薬師岳、白砂の大地に腰を下ろし富士山を眺める。

北岳のおとなり、間ノ岳(あいのだけ)の広い山頂で寝っ転がり、富士山とともに過ごす。

コロナで2020年はほとんどの山小屋が休業し、登山口へ私たちを運んでくれるバスも運休。

2019年の台風で被害を受けた林道の修復も全く進んでいないようです。

どうか、山で生きることを生業にしている方たちがお元気でいてくださいますように。