登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

山小屋で働く その3 どんな仕事をしているの?

勤務した山小屋の、ある1日の仕事です。

 

早番と遅番は交互。

早番は3時40分くらいから。

まず、お湯を沸かします。

ご飯を炊いたり、おかずの盛り付け。

熱々を食べてほしいので、直前にご飯と味噌汁を配膳。

5時前にはすべて完了して、みなさん「いただきます」。

 

遅番のときも3時30分には起きて、近くの山頂(コースタイム1時間ほどですが、荷物を持っていないので走ります)で雲海から昇るご来光を見てから走って下山。

汗びっしょりなので5時50分くらいから合流。

充実した1日の始まりで、なんとも幸せでした。

まず、みなさんが食べ終えた食器を下げてきて洗いますが、もちろん水をジャージャー流して洗いません。

4つの流しを順番にくぐらせていきます。

洗剤をつけてこすりながら洗う→すすぐ→きれいな水ですすぐ→熱湯で煮沸


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食器がありすぎなんですよ…朝も夕も。

小鉢が複数あって、もちろん味噌汁椀も。

おかずはワンプレートでいいんじゃないの…?

「ご飯茶碗で、食後のお茶を飲んでください。くっついたご飯粒もとれて洗いやすいし、水も無駄になりません」

昔、泊まった山小屋でそう言われたとき、「湯呑ひとつ洗うにも、たくさんの水が必要なんだ」って理解できました。

「そうしなきゃいけない」と思ったし、自分のカップを持っているからそれを使うのもいいと思い、そうしてきました。

でも、山小屋それぞれの方針があるのでしょう。

どの山小屋も食事には力を入れていますから競争になるのも分かります。

 

ともかく…洗う食器は、おそらくみなさんが想像している以上の枚数です。

 

そのあと、みんなで朝食。

NHKの朝ドラが始まる頃です。

天候が悪いと画面が乱れるので、1週間くらい観られないとどんどん話が進んでいることも。

起きてからけっこう時間がたっていますので、お腹がグゥーグゥー。

 

それから男女分かれて仕事をします。

トイレ掃除当番は、男女別なく順番にまわってきます。

ヘッドランプをつけて、内外いくつもあるトイレを掃除します。

3時間くらい、かかりました。

 

男性は、布団の上のゴミを取り除いてキッチリとたたみ、その日の予約人数に応じて部屋を整えます。

 

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女性は、ロビーや厨房・食堂を箒で掃いて雑巾がけ。

箒が短くて、腰にくるんですよね。

雑巾がけも、小学生の頃はスーイスイだったのになぁ…と昔を懐かしみながら、痛む腰をごまかしつつ、広い面積をひたすら拭きます。

歴史を感じるテーブルや床。磨くほど光ります。

それから、ラーメンやカレーライスなど軽食を提供するための準備、自分たちの昼食の準備、夕食の乾物の補充、調味料入れの点検をします。

 

軽食の注文が続くので、手の空いた人から順番に昼食をとります。

 

男性は、登山道の整備・草刈りや機械のメンテナンス、沢から水を汲み上げる装置の点検など外での作業も多く、どんどん日焼けしていきます。

 

ヘリの荷揚げの日程が組まれると、それに合わせて下げる荷物の準備もあります。

例えば空っぽになったビール樽など、不要になったものをまとめます。

 

ヘリの到着予定時刻に近くなると、山小屋前のベンチで休憩中の方たちだけでなく、歩いてくる登山者も山小屋内へ誘導します。

本当にすごい風ですから。 

ヘリが行ってしまったあと、屋内には大量の砂が入ってきていました…床や窓の桟には、拭いても拭いても雑巾に砂!砂!砂!

気が遠くなりました。

 

実際のヘリの荷揚げ中は、写真を撮っている時間はないですから…

お休みの日に見かけた荷揚げ風景をパチリ。

 

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雨が降らなかったため、すごい砂ぼこりです

ヘリでの荷揚げ(荷下ろし)が山小屋の食事やサービスをグンっと向上させたのだと思います。

8tもの荷を数回に分けて揚げてくれます。

たった数十年前まで、山小屋を作る木材も含めて、全てを人力で運び上げていたのに。

その頃の人たちが見たら信じられないでしょうね。

山頂で生ビールですよ?

居酒屋に置いてあるビール樽があるんですよ?

 

どんなものでも、移動には費用がかかります。

売店にあるジュースを「高い」という人もいますが、山で冷えているジュースが飲めるなんて、すごいことじゃないですか?

自分でそのまま持ってきたらぬるくなるし、冷たく飲みたいなら凍らせて背負って登らなくてはいけないんです。

お高いレストランで注文するコーラよりも、山の売店のコーラの方が安いのに、と不思議に思います。

生ビールを飲む人たちは、「高い」って言わないですね~。

汗をかきかき歩いて、きっと最高の一杯なのでしょう。