料理が苦手、というか家事全般が不得意な私にとって、山小屋の仕事自体は胸を張って「楽しいですよ!」と言えるものではありません。
「まわり全部が山」その環境に身をおきたいから、働きたかったのです。
しかし、お給料をいただいて働くわけですから、できないことばかりでは申し訳ありません。
やったことがないこと(やってみたら、得意分野になっちゃうかもしれないし)や、みんなが嫌がることは率先してやろうと思っていました。
そのおかげか褒めてくださる方もいて、働き始めるまで不安だった家事全般が不得意…という意識も吹っ切れ、苦手なりにいろいろなことをやらせてもらえました。
休みの過ごし方。
休みは10日間に1度でした。
私は1ヶ月勤務でしたので2度の休み。
これも時期や、働く人数によっても違うでしょう。
休みといっても丸々1日ではなく、夕方からは仕事です。
夕方に山小屋にいないと安全でない、という理由から。
前日におにぎりをいっぱい作って、往復8時間くらいの山を目指します。
山頂で昼寝するために時間には余裕をもって、4時には出発。
晴れてくれてよかった~。
雨だと、本を読むか寝るか筋トレか、の選択肢しか…
ホシガラスなどの野鳥を観察したり。
安定した電波を探す旅(?)に出ている人もいました。
街がくっきり見えるようなときは大体どこの電波も入るのですが、やはり不安定な日が多いですから。
山ではドコモが強いと昔は言われていましたが、私の格安スマホ(au)は山小屋から1分歩くとほぼ毎日通話できました。
私の夜の過ごし方。
みんなとワイワイは苦手なので、おしゃべりには不参加。
毎晩1時間ほど、体が冷えるまで空を眺めてから眠りにつきました。
なんにも考えないで、ただ大きな景色の中にいる贅沢な時間。
零れ落ちそうに大きな無数の星。
山小屋の屋根からのびる北斗七星、すっと視線をずらせば天の川。
月が大きい日は、とても明るくて本を読めた。
少しうつむけば蒼みがかった雲海がつづいている。
山は黒々としていて、圧倒的な存在感だった。
雷は美しかった。
遠くに光るどこかの山小屋の灯りに、なんだかほっとした。
ときたま見える街の灯りに、会いたい人を思い出して涙が出そうになった。
夢のような、頭がぼぉっとのぼせてしまうような、美しい景色をたくさん心に残せました。
あの夜空は写真で撮りたかったです。
一眼レフ、いつか買いたいな。
とても大切な時間だったのでずっと忘れることはありませんが、「こんな景色なんだよ」と見せたくなりました。
ふたつ、やれなかったことがあります。
山小屋の屋根で布団を干すこと。
夢だったから…「今日は干しますか?」と何度聞いたことか。
毎日NOを言われるので、2週間たつと聞けなくなりました。
きっかけは、北アルプスの双六岳から双六小屋へ向けて下りていたときのこと。
双六小屋の屋根の色は赤ですが、その上に点々と白い四角いものが。
「あ!! 布団だ~」
双六小屋に泊まる予定だった私は、おひさまの匂いのする布団にくるまって眠る夜を想像するだけで幸せな気持ちになりました(夜はあたたかな布団でぐっすりでした)。
干した布団の脇には、寝転がっている人の姿も。
小さいものは枕です。
「いいなぁ~、気持ちいいだろうなぁ。あんなところで昼寝したい…」
休憩中の小屋番さんだったのでしょう。
「山頂で昼寝」が趣味の私ですが、「山小屋の屋根で昼寝」してみたいけど山小屋で働くなんて一生ないんだろうなぁ、と思っていました。
おしかったな。山小屋で働く、まではできたんだけどな。
実際の寝床は、個室ではなく男女別の相部屋でした。
従業員全員に個室がある山小屋もあるようです。
私が働いた期間中は、4~7人で寝ていました。
自分のスペースは布団1枚分です。
眠れないかと思ったら、毎日クタクタだったので横になった瞬間寝てました。
やっぱり頭が疲れる仕事より、体が疲れる仕事がいいな。
坊主頭にすること。
山で長期間暮らすなら髪は短い方がいい。
かゆくなってもすぐ洗える環境ではないのです。
ロングヘアの子たちは大変そうでした。
ドライヤーもありませんし。
シャンプーも大して泡立たないし、流すお湯も豊富にあるわけではなく、入ったあとのお湯を使うためキレイではありません。
短かった髪をさらに短く刈り上げて働き始めましたが、日に日に「坊主にしてみたい…寝ぐせにならなくて楽そう」と思いは募りました。
以前、美容師さんに「頭の形がいいから坊主にしても平気だよ~」と言われたことも思い出してしまいました。
坊主頭の男性が「バリカンあるからやってあげるよ~」と言ってくれましたが、下山後すぐに働かなければと思っていたので、踏ん切りがつかなかった。
今、「あのときしか坊主にするチャンスはなかったのではないか」と本気で後悔しています。