登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

那須岳へ その2

昨夜の窓枠を激しく揺らす風なんて、まるでなかったかのような静かな朝でした。

風向きのせいか、弱まったのか。

電波が入らないここでは確かめようがありません。

登ってみて風がまだ強ければ引き返して、昨日の道で殺生石へ下山すればいいや。

 

7:10

水場の左側の道から出発!

雪はうっすら積もっている程度でサクサク音がします。

チェーンスパイクは最後まで使わずに済みました。

なだらかな登りで始まります。

 

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7:30

噴気孔からもぅもぅと。

瞬間的には視界が遮られるほどです。

すごい硫黄の匂い!

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この辺りから雪が多くなってきました。

普段よりも小股歩きを意識します。

街で歩くように大股で歩いてしまうと、つるりと滑ったときに踏ん張ることができません。

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快晴の予報だったのになぁ…ガスってる。

起きたとき、陽の光の染まる山肌を見て「やったー!」と思ったのですが。

ま、いっか。

山は歩いているだけで楽しい(よほどの悪天候じゃなければ)から。

 

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枝が雪でコーティングされています。

砂糖をまぶした、かりんとうみたい。

この真っ白な枝が、背景の白に溶け込みます。

アルプスや八ヶ岳のようなダイナミックな景色ではありません。

雪がついた枝、それだけの景色です。

それなのに見とれてしまい、なかなか進みません(稜線に出たらもっともっときれいで、ますます歩みが遅くなりました)。

北温泉につかって、高速バスの時間に間に合うように歩くので、今日はけっこうタイトな計画です。

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でも時間に追われてせっかくの景色を楽しまないなんて、なんのために登ってきたのか分かりません。

時間に余裕がない時は、ポイントごとに時間を区切って予定をたてて、時間が過ぎていたら〇〇をショートカットする、と決めておきます。

 

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すべてが白。

びっしり雪がついて、まるでサンゴが白化しているよう。

ここが海なのか山なのか、一瞬分からなくなりました。

サンゴの白化は、温暖化やいろいろな理由によって起こりますが、環境が回復せずに白化の状態が続くとサンゴは死んでしまいます。

そんなことは知らずに、初めて海中で白いサンゴを見たとき、青い海に差し込む陽の光でさらに白く輝くサンゴを美しいと思ってしまいました。

そのことを急に思い出すくらい、真っ白な世界がずっと続きます。

「青空が良かった」

さっきまでそう思っていたのに、今は

「この真っ白な世界、いいなぁ〜」

と思っているのです。

今いる世界を楽しめるようになれれば、いつでも幸せかもしれません。

 

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8:20

隠居倉(いんきょぐら)…名前の由来は何でしょうか。

標高1819m。

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稜線に出ました。

風が少し吹いていますが、ニット帽をかぶるほどではありません。

先に進むことにします。

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太陽や青空がお出ましになりました。

太陽は本当にすごい。

出てくると途端に体感温度が変わります。

 

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名前が分からない鳥が群れでガスの中へ飛び去っていきます。

「鳥は先が見えなくても飛べるんだな」

と思いました。

すぐにそれは違う、と気づきました。

先まで行けば、またその先が見える。

今、歩いている私もそうです。

ここからは50m先しか見えない。

でもそこへ行けばまた50m先が見える。

足を前に出しさえすれば必ず着く。

山を歩いていてつらいと、自分をそう励ましています。

 

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白い世界。

なにもかもがきれいで、笑いがこみあげてきます。

昨日は顔に当たる氷の粒が痛かった。

小屋の中も寒かった。

でも登ってきて良かった。

 

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稜線を歩いていると、これからもっともっと発達するのでしょうが、エビのしっぽができ始めていました。

「エビのしっぽ」とは樹氷の一種です。

風に飛ばされた雪が植物や岩に付着して積み重なって長く伸び、凍ってエビのしっぽのように見えます。

風が強いほど風上側に大きくなっていきます。

片側に発達し、その反対側には全く雪が着いていないことが多いです。

初めて10月の硫黄岳(八ヶ岳で風が強い山)で見たとき「なにこれ!!」と興奮したのを覚えています。

 

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9:00

熊見曽根(この名前からして、熊がいそうです)

晴れていれば絶景であろう稜線ですが、ここが今日いちばんの強風でした。

びょぉびょぉあおられながら進みます。

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ケルンにもエビのしっぽができつつあります。

風下にはまったく雪が着いていません。

足元の石にもこまかく着いています。

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ハイマツの実も、雪の襟巻きをしています。

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「1900m峰」という道標からけっこう下ります。

雪が真っ白な花畑に見える…冬の桜だ。

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このあたりから太陽に溶かされた雪でぬかるみが発生。

ここで尻もちは大惨事…慎重に下ります。

と思った瞬間、前を歩いていた男の子が滑った!

スニーカーか…しかも白。

汚れているけど多分、白。

なんで白い靴履いてきたの…

 

9:30 清水平

溶け始めたエビのしっぽがバラバラと落ちてきます。

凍っているから、当たると痛い。

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9:45

北温泉分岐

計画より30分早い。

が、心配事が…そうです。

トイレです。

 

続きます。