基本的に知らない人と仲良くしゃべるのが苦手なので、山では山小屋の方以外とは、ほとんどしゃべりません。
北アルプスにある水晶小屋で一息ついていたら、
「何かおごらせて」
と、到着したばかりの年配のご夫婦に言われたことがあります。
「ビールでいいかな?」
えっと…
おごっていただく理由がありませんので、けっこうです。
「カミさんが途中でバテててしまって。でもひとりで登っているあなたの姿がずっと先に見えていて、励みになった。その服、目立つねぇ〜」
ふぅん、水色は目立つのね。
そうじゃなくて!
私が見えたことが、よかったのでしょうか。
「あなたもときどき休みながら、最後の坂を登っていた。みんなも疲れていて、それでもがんばってるんだ、私もがんばる、って言って歩き通したんですよ」
そうでしたか…
ただ歩いていただけですが、お役に立ててよかったです。
山を人生にたとえるのか、人生を山にとたえるのか。
山は誰にも等しくあります。
荒れることももちろん、あります。
でも、一歩を出し続けていければ、歩き続ければ、必ず着く。
どんなに急坂でも一歩を出すしか、ないんですよね。
そのときは、前日に富山県の折立から山に入り、薬師沢小屋に泊まりました。
その方たちも同じ小屋に泊まっていたのでしょう。
大きな小屋ではないので、宿泊者も少ないのですが記憶にない。
いかに周りに無関心か…
その日は、最後の秘境といわれる雲ノ平を歩き、水晶小屋へ向かっていました。
コースタイムは6~7時間です。
雲ノ平を過ぎて、祖父岳へはけっこうな登り坂でした。
「あとちょっと~」と思いながら、休み休み登りました。
「ビール、何杯でもいいからね」
では、牛乳でお願いします。
吹き出されました。
だって、ビール飲めないんだもん。
それに、小屋のメニューみたとき、
「牛乳飲みたいなぁ。でも400円(運搬のコストがかかりますから、高いのは当たり前)かぁ。飲み始めたら1つじゃ足りなくなって、いっぱい飲んじゃいそう…」
って思ったんだもん。
小さな紙パックの牛乳に「それじゃ足りないでしょう」とホットココアもつけてくださり、3人で今まで登った山の話をして、夕食まで楽しく過ごしました。
翌朝、私の方が先に出発でした。
「またどこかの山で」
この別れ方が好きです。
偶然、どこかの山で再会する可能性なんてほとんどゼロだと思うのです。
それでもこれでいいのです。
お互いが無事に下山できることを祈り、これからも楽しく山を歩き続けてほしい、という思いが込められた一言だと思っています。
人と積極的にはしゃべろうとしませんが、このときのように楽しく話せることもあります。
かと思えば、大好きな三俣蓮華岳の山頂でお昼寝をしていたときのこと。
30代前半の頃だったのですが、私よりも年下と思われる男性に話しかけられました。
寝てたのに。
しつこく今回のルートを聞いてきます。
他人のルート聞いてどうすんの?
私が到底歩けないようなルートなら興味がわくこともあるけれども、とりあえずそのときは聞いてくる意味がわからず、答えずにいたのですが本当にしつこい。
のんびりしてるんだから、ほっといてほしい。
聞いていないのに、自分が歩いてきたルートのことを話し出す。
えー、寝てたんだけど。
あまりにしつこいから、大まかに答えました。
なんで今日だけ歩行時間が少ないのかと聞かれたので、
「ここの山頂が好きだから、三俣蓮華岳を通るときは半日のんびりできるように予定を組んでいる」
と答えると
「なんでそんな無駄なことをするんですか?」
ほっといてほしい。
どう過ごそうと自由じゃない?
今、ここで昼寝をしていることで誰かに迷惑をかけているだろうか。
すぐそこの山小屋に泊まるし、折立から入山してからこの日まで、予定通り歩けてるんだけどね。
やっぱり言わなきゃよかった。
こんな腹のたつ出会いもあります。
ちっ。
あと出会いといえば…
「男女の出会いの場」として、山コンというのがあるらしいですね。
山を歩けば相手のことが全て分かる、とは言いませんが、自分もヘトヘトになっているときに相手を気遣えるか、くらいは見えそうです。
歩調が同じでない相手と一緒に歩くとき、どうするか。
サッサと行く人もいますから。
お付き合いを始めてからでも、山に行くのもいいかも。
知らない一面(いい面かも!)が見えるかもしれませんし。
そのご夫婦と会った10年後、その水晶小屋には泊まりませんでしたが、同じようなルートを歩きました。
高天原温泉、よかったなぁ~。
三俣蓮華岳や黒部五郎岳など、大好きな山がこのあたりにあります。
また行きたい。
行きたいところばかり。