登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

奥穂高岳へ その4

30分後に、またハシゴ。

勤務先で、もうすぐ槍ヶ岳に行くというお客さんが

「私、ハシゴが苦手なのよ」

槍ヶ岳、いくつかハシゴあるけど大丈夫ですか…

ハシゴって垂直に近いものもあるし、怖いと思う人もいるだろうなぁ~、とふんふん聞いていたのですが、その人のハシゴをもつ仕草が気になりました。

「え? いつもハシゴのどこをつかんでらっしゃいますか?」

ハシゴを上下するときは、ハシゴから少し体を離して、足を置く横の棒を握り(3点保持:手と足の4点のうち、3点は動かさずに1点だけを動かすことを繰り返して移動)ますが、その方は縦の棒を握っているというのです。

「前に行ったツアーで、こうしろと言われたのだけど…」

それは違います!

握力がないと、スルッと手が滑ったときに、片手ではおそらく支えきれない。

滑り落ちたら止まれません。

「みんなが歩いた汚いところを持つの?」

そう言われれば、汚いかもしれない…

でも山を歩いていると、ハシゴだけでなく、岩をつかんだりもするしなぁ。

そのときに、ここは誰かが足を置いたから汚い場所だ、と思ったらつかむところがないです…

お客さんが山に行ったあとに「楽しかった〜」「買ってったの、役にたったよ」とご報告に来てくださるのが嬉しいです。

出発して2時間がたちました。

少し平らだし、岩が落ちてくるような場所じゃないから休憩しよう。

いい景色だなぁ。

少し上がっただけで、違う景色が見える。

先に、もっと先に、行きたくなります。

 

7:15 雷鳥広場

7:20 ようやく太陽が岩の向こうから見えてきました。

 

このハシゴ、昔はもっと曲がっていたような…

 

7:40 紀美子平

ここは前穂高岳奥穂高岳への分岐です。

前穂高岳へ行かれる方はだいたい、紀美子平に大きなザックを置いて身軽に行きます。

今回はいいや~。

前穂高岳への往復1時間の差で、雷にあわずにすむかもしれないから。

 

8/9 8:35 追記

紀美子平からの分岐は、正しくは前穂高岳奥穂高岳でした。

西穂高岳」と書いてしまっていました…

恥ずかしいです。

「前穂忘れないで♫」さん、ご指摘くださり、ありがとうございました。

 

ここから吊尾根の始まり。

ヘルメット着用奨励山域/長野県

登山用ヘルメットのすすめ – 上高地公式ウェブサイト

でも、ヘルメットをかぶっているかは滑落してからあとのこと。

最近、ヘルメット着用が義務化された自転車と同じです。

かぶるかぶらない、より事故を起こさないことの方に意識を向けなくては。

自転車だって、ヘルメットをかぶっているからって猛スピードで走って、周りに気を配らずに事故を起こすのは、なんか違います。

もらい事故もありますから、かぶるのが無駄だとは思いませんが。

 

でもヘルメット、暑いんですよ…

かぶったことで朦朧としてしまいそう。

もともと、帽子もキライでかぶらない。

 

吊尾根は水平移動も多いですが、気を抜かずに行こう。

安全なところでこまめに水分補給しながら進みます。

 

不気味に光る目…

ただの岩の隙間なのですが、なんかそう見えるんですもん。

 

写真で見ると「どこを歩くの?」といった感じですが、現地にいるとちゃんと道はあるのです。

足元はすぐ崖なので、しっかり歩きます。

 

上高地がずいぶん下に見えました。

明日はあそこまで一気に下るんだよな。

筋肉痛、決定だ。

 

登ってきた岳沢小屋や上高地とは反対側には、涸沢が見えます。

標高3,000m超えた〜。

お腹すいてきた。

千葉で買った、落花生ラスクを食べよう。

こうやって、どこかで買ったお土産を山で心おきなく食べるのがいい。

下界だと、ちょっと罪悪感があるときもある。

 

9:50 急な岩場、鎖場です。

上ると石仏がありました。

見守ってくれているような。

 

雪渓の断面も見えます。

 

9:55 南陵の頭

ジャンダルムに数人いるのがハッキリわかる。

特徴ある形の岩ですが、けっこう登ってこないと、この形に見えないのです。

 

奥穂高岳も見えました。

雲がけっこう上がってきているので、私が山頂に着く数分の間に真っ白になるだろうなぁ。

 

10:05 奥穂高岳△3190

おまいりをして、景色を眺めます。

やはり、真っ白でした。

ジャンダルム。

やっぱりこの形がいちばんかっこいい。

20分休憩して穂高岳山荘へ向けて出発です。

ここからが今日いちばん気をつけるところ、奥穂高岳の山頂~穂高岳山荘への下りです。

 

と、緊張感いっぱいで歩き始めたのに、この石がチーズケーキに見えて立ち止まる。

チーズケーキ、食べたい。

 

一歩一歩、慎重に。

あと少し。

小屋が見えたけれど気を緩めないよう、受付の前に立つのが今日のゴールだと強く念じます。

けっこう高度感があります。

屋根に服がたくさん干してある~。

 

最後に2つ、梯子を下りるのですが、ここで大渋滞…

まさか、安定しない足場で30分近く突っ立って待たされることになろうとは…

そりゃ、登り優先だけど、限度ってものがあるのでは?

穂高神社の神事で登ってきたとのことで、40人以上の列。

ここから5分で小屋に着けるのに。

ハシゴを上ってくる写真をひとりにつき数枚撮るものだから、時間がかかるかかる…

しかも途中でどこかに電話したり。

一緒に待っていた、ジャンダルム方面から来た男性たちは

「先に行かせて」

と下りていきましたが、そのとき引率している方が

「すれ違える場所ないんだから、責任もたないよ。それでもいいなら行きな」

と。

男性たちが私に

「一緒に下りよう、これじゃいつまでかかるか分からないよ」

と言ってくださったのですが、

「責任もたないよ」

とまで言われて下れるほど、自信ないですもん。

小屋を目の前にして、滑落なんてしたくない。

不安なことは、やらない。

 

でも、なんだかなぁ〜。

登ってきている人たちの中には、小さいお子さんもいました。

山に慣れてそうな方が何人もいたので、グループ分けすればいいのに。

 

やっと下れる、と歩きだそうとすると、ずっと突っ立っていたので脚がガクガクしてしまって。

ハシゴのあとは、後ろ向きになって岩をつかみながら下ります。

いや~、本当に緊張しました。

正直、待たなければそのままスイスイ下りられたと思います。

 

11:30 穂高岳山荘△2996

小屋の前でくつろいでいた、先に下りた男性たちが

「ずいぶん待たされたね~、大丈夫だった?」

ずっと動けなかったから、脚がガクガクしました。

「そうだよねぇ~、あそこでこんなに待たされるのきついよね」

下りようっていってくださったけど、自信なくて…

「岩場は無理しちゃいけないよね。でも見てたら、後ろ向いてしっかり下りれてたから、行けたと思うよ〜、おつかれさまね」

お優しい…

 

1日前には、このハシゴを下りた後にそのまま滑落(10mほどの高さ)し、足を怪我してヘリで搬送された男性もいました。

緊張して通過した後の、ホッとしたときも危ないのかもしれません。

小屋の前でくつろいでいる方が多かった時間帯なので、騒然となったそうです。

 

良かった、雨が降る前に無事に着けた。

チーズケーキは持ってないから、カステラ食べよう。

 

続きます。