登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

なんのプロ?

先日、ご来店いただいたお客さま。

 

「これ、試着させて」

と試着室にお入りになってカーテンをしめました。

珍しいな〜、とは思いました。

それは「サーマルウェア」や「中間着」と呼ばれているもの。

寒い季節に暖かすぎない保温をする、という役割なので、長袖の上にこれを着て、さらにアウターを重ねる、というような着用パターンがほとんどです。

なので、試着室に入らずに鏡の前で、今着ているものの上に着るだけで済ませている方ばかりなので、カーテンまでしめるなんて恥ずかしがりやさんなのかなぁ〜、と。

 

登山をしない方がイメージするとしたら、ごく薄いフリースになるのでしょうか。

お店に置いてある商品を

「これがお店にある中で、いちばん薄いフリースです」

とご紹介すると、

「え、これ、フリースなんだ?」

と言われるような薄さです。

 

薄手のフリースを、日除けや、肌寒い季節に歩くときにオススメしていますが、薄手の化繊の中綿の方が私は好きで、風が強い秋の稜線歩きにも重宝しています。

これはアウターとしても使えるタイプなのですが、この中の黒い部分が化繊の中綿です。

表地がくっついているのでお見せできないのですが、光に透かすと、半分は透けます。

暑くなりすぎないように通気性がありつつ、ある程度の保温はしてくれるというものなのです。

初めて見たときは、こんなの暖かいわけないって思いました。

ところが!

ちゃんと暖かい。

しかも濡れても乾く。

優秀!

 

さて、試着室から出てこられたお客さま。

「これ、チクチクするね」

そうでしたか。

首元のあたりですか?

「いや、全体的に」

全体とおっしゃいますと?

「素肌には着られないってこと」

お客さま、こちらはいちばん下に着るものではなく、中間で軽い保温をしてくれるものですので…

「あのさ、プロはさ、こういうのは素肌なわけ」

 

ここからは、心の声です。

プロ?

なんのプロ?

 

アンダーアーマーのなんたらかんたら、やマムートのなんたらかんたらだって、俺は素肌だもん」

お客さま、申し訳ありませんが、こちらの商品は素肌にではなく、肌寒さをお感じになったとき、何かの上に着ていただくようにつくられています。

そのほうが本来の性能を発揮できると思うのですが…

「だぁかぁらぁさぁ! 何度も言わせないでよ。プロだったらいちばん下だって言ってんの」

 

心の声。

ダメだ…。

たぶん、通じ合えない。

着る順序を聞かれることはたくさんあるし、新しい素材がどんどんでてくるから、私だって知らないことたくさんありますもん。

調べたり、実際に使っている同僚に聞いたり、ブランドの店員さんにももちろん聞きます。

 

お連れの女性が

「この人、あなたがプロだって分かってないんじゃない?」

 

心の声。

はい、おっしゃる通り、なんのプロなのか全くわかりません。

見当もつきません。

私もガッシリドッシリした体型なので他人のことはとやかく言えませんが、着ているパーカのファスナー周りの布がちぎれんばかりに、はち切れそうな体型の方ですし…

山のプロではないのか?

 

ガイドさん、クライマーさん、山岳救助隊の方々…

山のプロを今までたくさんお見かけして、お話もしたりして、みなさん本当にすてきな方々でした。

少なくとも「プロはさ〜」みたいな話し方をされる方はいらっしゃいませんでしたし、少しお話を聞いたときだって「プロなのだから、◯◯の状況のときにも△△でありたい」というようなプロ意識の高い言葉しか聞いたことはありません。

山岳救助の現場に居合わせたときだって、すごすぎて体が震えたくらいです。

 

白馬はMILLET、駒ヶ根はmont-bell、などガイドさんはブランドと提携していることもあるので、扱っている商品を着用しているシーンを見たこともありますが、中間着を素肌に着ている方なんて皆無。

だって、ほかに素肌専用(?)のものがたくさんあるのですから。

 

「しかもさ、糸が太いんだよ。こんなんじゃ着心地わるいって言っとけよ」

 

心の声。

もう、いいや〜。

 

ご期待に添えず、申し訳ありませんでした。

こちらのお店にあるもので、ベースレイヤーとしてお使いいただける商品をご案内いたしますか?

「今日はこれを見にきただけだから、いらねーよ」

 

心の声。

さようなら。

謎すぎます。

で、なんのプロなのですか?