登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

熊鈴、鳴らしていますか?

熊鈴…山には必ず持参し、常に鳴らして歩かねばならないものだと、山1年生のときは思っていました。

必需品リストにも載っていましたし。

1人で歩いているときはもちろん無言ですので、熊に自分の存在をアピールして

「どうぞ何事もなく通してください…」

と、やり過ごせればいいなと思っていました。

 

対人間の場合も同じです。

薄暗いとき(早朝から歩くこともあるので)に、いきなりバッタリ出会うと相手も驚くと思います。

自分の存在を近くにいる人に知らせるために、誰かの気配を感じたら軽~く咳ばらいをしたり、地味にそんなことをしています。

ずっと咳払いをしているのも疲れるので、熊などを避けるだけでなく、熊鈴はそういったことにも使えそうだと思っています。

 

しかし最近の情報では、人間に慣れた熊だと「鈴を鳴らす」ことによって人間がいると分かり、寄ってくることもあるそうです。

2017年の秋に下山してきたら、観光客でいっぱいの上高地を熊が歩いていました。

こういう光景を見てしまうと、人間を恐れていないのかもしれないと感じてしまいます。

 

以前は、「熊は臆病だから人間に出会うと驚いて攻撃してしまう」と言われていましたが、変わってきたのでしょうか。

じゃあどうすればいいんだよ…と思いますが、私も1度奥多摩でカーブを曲がったら、向こうのカーブから子熊が出てきたことがありました。

そのとき、熊鈴は鳴らしていませんでした。

 

子熊がいるなら、近くに親熊がいるのが当然だと思えます。

子熊もびっくりしたようでした。

真っ黒なのに表情が見えた気がしました。

私も無言でとても驚いていました。

本当に驚くと、声は出ないもの。

変質者に連れていかれそうになったら「大声を出せ」と小学生の頃に教えられましたが、絶対に無理ですね。

ブザーの紐も引けるかどうか。

 

子熊は全く動きません。

私はカーブから3歩ほど出たばかりでした。

顔は動かさずに視線だけ動かして、周囲に親熊がいないかを確認しました。

親熊の姿は視界に入らず、葉がこすれる音も聞こえません。

 

子熊を見つめながらゆっくりと後ずさりしてカーブを戻り、見えなくなってから3分ほど一生懸命走りました。

そのまま来た道を下山して、温泉に入って帰りました。

時間をおいても同じ道を通るようなことは、私にはできません。

豆腐料理を食べて帰りたかったけれど、あきらめましょう。

 

クライマーの山野井さんのご自宅は奥多摩にあるそうです。

レーニング中に熊とバッタリ出会い、顔や腕に深い傷を負いました。

「熊を恨む気持ちはない」とおっしゃっていた記憶があります。

私たちが、熊が普段生活している場所に踏み込んでいくのです。

広い山の中で、お互いの姿を認めずに過ごせるのがいちばんなのでしょうが、

「出会ってしまったときに、自分はどうするか」

は必ず想像しておかないといけないな、と思いました。

  • 声は絶対にあげない
  • 目を合わせない
  • 基本的に自分からは動かないが、しばらくして熊が動いてくれなければ静かに後ずさり
  • こっちに来たら、急な下り斜面を走って逃げる(前足が短いから下りは苦手という説があり、それにかけたいが自分もケガをしてしまう可能性も)
  • 至近距離で襲ってきたら、うつぶせになり背中はザック、頭と首の後ろは手で守る

私が心掛けているのは、以上です。

 

何か、熊にとっても人間にとってもいい方法はないのでしょうか。

いくら効果的だと言われても、私は熊鈴のチリチリ自己主張する音が、どうにも好きになれないのです。

耳障りに感じてしまいます。

危険を避けるために鳴らさなければいけない、と思っていた頃もイヤでした。

 

せめて好きな音色を、と種類がありそうなので熊の本場、北海道に旅行した際探しました。

それをカラビナにつけて普段はウェストハーネスのポケットにしまっていますが、子熊に出会ったときのようなカーブや、森の中を進んでいくときにだけ、引っかけて鳴らしています。

 

山の中は、たくさんのきれいな音であふれています。

鳥の鳴き声や、風が揺らす葉の柔らかな音、自分の足音しか聞こえない静寂の時間も心地いいのです。

人工的な音は、それらを消してしまいます。

 

グループでワイワイ歩いているのに、全員が熊鈴を鳴らしている場面に出くわすと

「鈴、いらないんじゃないかな…」

と失礼ながら思ってしまいます。

今だけそのテンションじゃないでしょう、ずっとですよね…

後ろからの音の方がよく聞こえるので、追い抜いてもらいます。

 

見晴らしがいい場所を歩くときも、鳴らす必要がないと思いませんか?

ずぅーっと気持ちのいい道が続いているアルプスの稜線、水場もありませんし。

 

南アルプス鳳凰三山のひとつ、薬師岳近くの小屋には看板がありました。

「熊は出ません」

鈴の音ではなく、自然の音をみなさんで楽しんでくださいという配慮だと思います。

 

登山口には、さまざまな注意書きがあるので、入山する際は必ず目を通します。

「〇月〇日、熊の目撃情報がありました」

「登山届は出しましたか?」

などが多いです。

 

ヘッドランプと同じで必ず熊鈴は持参しますが、常に鳴らす必要があるか少し考えてみてもいいのかなと思いました。

高尾山でも鳴らさなければいけないでしょうか。

 

そして下山したら…

公共交通機関に乗り込む際にはストッパーをつけ音が出ないようにするか、ザックの中にしまいましょう。

当たり前のことだと思われるでしょうが、鳴らしっぱなしの方もいます。

静かな車内、気になりだしたらイライラさせてしまうと思います。

私たちには耳慣れている鈴の音色ですが、山を歩かない方からしたら騒音以外の何物でもないと思います。