妹と雲取山の山頂にある避難小屋に泊まったときのこと。
途中で抜いた年配の女性に
「私、今夜テントで泊まるんだけど大丈夫かしら」
何について大丈夫か聞かれているのかが分からない。
気温か?
12月上旬のことですが数日前に降ったのでしょう、足元には数センチの積雪がありました。
「えーっと、夜中寒いかということなら寒いと思います」
「そうよねぇ、ご飯もねぇ」
ご飯?
持ってこないでテント泊ってことないよね?
「寒いのが無理そうだったら避難小屋が山頂にありますし、山小屋もありますよ」
とだけ伝えて先に行きました。
私たちは寝袋は持参していましたが、避難小屋がいっぱいだったら、山頂から少し下った雲取山荘に泊まる予定にしていました。
避難小屋には私たちだけでした。
そして私たちが夕食の支度を終えようとした頃、女性は到着しました。
こんな時間(外は真っ暗)だから、もう誰も来ないだろうなぁと思っていたのでビックリ。
「やっぱりテントやめちゃったわ」
「あら、ラーメンなの? いいわねぇ」など頻繁に声をかけてきます。
翌日は長時間歩く予定だったので、早めに寝袋に入りました。
寒かったので、夕ご飯で体が暖まっているうちに眠りたかったのも理由です。
途中で何度か目は覚めましたが、眠気も吹っ飛ぶような目の覚め方をしたのが深夜1時過ぎ。
動物の唸り声がします。
かなり大きい。
妹を見ると、妹もこっちを見ていました。
「まさか、熊じゃないよね?」
小声で囁きあいます。
避難小屋の周りをぐるぐると歩いているのか、唸り声は遠ざかったり近づいてきたりします。
「ここの扉、二重だったよね」
「確か、互い違い(どっちか忘れましたが、1枚目を左に開けるなら2枚目は右に開けるということ)になってた。熊って頭いいかな、開けれちゃうと思う?」
「開けれなくても、体当たりで一発でしょ」
どうしようどうしよう。
全然頭が回らない。それでも考えました。
とりあえず、一番上に着ていた服を脱いで左腕に巻きつけました。
一撃目を受け止めることになるかも、と思ったからです。
すると明らかに唸り声が変わりました。
強弱がない、笛のような甲高い音になったのです。
「あれ?」
「え?」
妹と同時に、避難小屋の対角線で寝ていた女性の元へ。
そうです。
ホンモノの熊ではないのです。
女性のイビキです。
すみません。
でも妹と私の恐怖は相当なものでした。
たった10分ほどでしたが、「2人そろってダメだったら、お父さんとお母さんに何て言おう(ダメだったら言えるわけないのに、動転しているから)」
ここで熊に襲われたら、まず逃げ切れないと思いましたから。
朝5時。
「あ~、あまり眠れなかったわ」と言いながら起きてきた女性に絶句。
私たちもです。
「あら、水が全部凍ってる~」
寝袋の外に出しておいたから(寒い季節は無造作に外に出しっぱなしにしません。保温袋に入れてザックの真ん中に入れたり、寝袋の中で一緒に寝たり)です。
今、室内ですがマイナス5℃ですから。
「あなたたちのは?」
あげられません。これから歩く分もあるんです。
ご自分で溶かしてください。
「一緒に歩きましょうよ」
辞退させていただきます。
避難小屋は、広くはないので人数が多いと狭く感じるでしょう。
建物はしっかりしており、少し歩けばトイレもあります。
山頂からは富士山、街の灯りが見えます。