登って潜って、月をみて。

生きていれば、こんな景色に出会うことができる。こんなに幸せな気持ちにさせてくれる。

命の終わり

昨日、仕事をしていたとき。

あまりに眠くて立ったまま寝そうになったので、慌てて目をキョロキョロさせてみたら、視界の隅に動くもの。

5メートルほど先、雨で濡れた道路を何かが横切っていきます。

 

最初は全く何か分からなかったのですが、目を凝らしているうちに、セミだと分かりました。

透き通っているはずの羽が水を吸って黒光りし、その体はとても重たそうでした。

1分に30センチメートルほどのスピードで、懸命に足を前に出して進んでいきます。

やっと足を出して体を引きずって進むという動作を静かに繰り返していました。

「あぁ、きっとこのセミはもう死んでしまうんだ」

と思いました。

どこに行きたいのだろう、と思いました。

すぐそこに草がはえているけれど、そこへの段差は20センチメートルはあり、このセミには越えられないんだと残念に思いました。

勝手な思いだけれど、セミも、アスファルトではなく草むらに向かいたかったのではないかと。

 

5分後にはもう、10センチメートルも進めなくなっていました。

それでも、足を前に出し、体を引きずって進みます。

目が離せなかった。

足を前に出す間隔が、どんどん長くなっていきます。

 

そして、静かに動かなくなりました。

力尽きた、という言葉が浮かび、

命が尽きたんだ、と思いました。

 

 

山と関係なくてすみません。

夏の終わり、アスファルトの道路のあちこちにセミが死んで転がっています。

私が目にするときは、もう死んでしまっているか、近くを通るとジジッと最後の雄たけびのような大きな音を出すのでひどく驚いてしまうか。

木につかまる(?)力がなくなり、ぽとっと落ちて死ぬのかと思っていました。

 

こんな風に静かに死んでいってしまうと思いませんでした。

知らないことって、いっぱいあるのだなと思いました。


あのセミはどこへ向かおうとしていたのだろう。

知りたかった。